「40代に入ってから急に疲れやすくなった」「イライラが止まらない」「やる気が出ない」——こうした症状に心当たりはありませんか?
それはもしかすると、男性更年期障害(LOH症候群) かもしれません。女性の更年期障害はよく知られていますが、男性にも更年期障害があることはまだ十分に認知されていません。
日本泌尿器科学会によると、40〜60代の男性の約6人に1人 がLOH症候群に該当する可能性があるとされています。この記事では、LOH症候群の正しい知識と、今日からできる対策を科学的根拠に基づいてお伝えします。
LOH症候群とは?女性更年期との違い
LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)は、加齢に伴うテストステロンの低下によって、身体的・精神的・性的な症状が現れる疾患です。
女性更年期との違い
女性の更年期は閉経前後の数年間に急激にホルモンが変化しますが、男性の場合は 緩やかにテストステロンが低下していくため、症状の出方が異なります。
- 発症時期: 40代後半〜60代が多いが、30代後半で発症するケースも
- 進行速度: 女性と比べてゆっくりと進行するため気づきにくい
- 個人差: テストステロン低下の程度と症状の重さには大きな個人差がある
- 回復可能性: 適切な治療と生活習慣改善で症状の改善が見込める
知っておきたい事実: テストステロンは30歳以降、年間約1〜2%ずつ低下します。しかし、生活習慣やストレス、肥満などの要因が加わると、低下速度が加速することがあります。
LOH症候群の3つの症状カテゴリ
LOH症候群の症状は大きく身体症状・精神症状・性機能症状の3つに分類されます。
1. 身体症状
- 疲労感・倦怠感が続く
- 筋力や筋肉量の低下
- 関節痛・筋肉痛
- 発汗・ほてり(ホットフラッシュ)
- 内臓脂肪の増加(お腹が出てきた)
- 骨密度の低下
- 頭痛・めまい
2. 精神症状
- イライラ・怒りっぽくなる
- 不安感・焦燥感
- 意欲・やる気の低下
- 集中力・記憶力の低下
- 不眠・睡眠障害
- 抑うつ気分
- 自信の喪失
3. 性機能症状
- 性欲(リビドー)の低下
- 勃起力の低下・ED(ED改善ガイドも参照)
- 朝立ち(夜間勃起)の減少
- 射精感の低下
European Male Ageing Study(EMAS, 2010)によると、 テストステロン低下と最も強く関連する症状は性欲低下・勃起障害・朝立ちの減少 の3つであることが報告されています。
セルフチェック|AMSスコアで自己評価
以下は医療現場でも使用されるAMSスコア(Aging Males' Symptoms score) を簡略化したチェックリストです。当てはまる項目を数えてみてください。
症状チェックリスト
- 全体的に調子が悪いと感じる
- 関節や筋肉に痛みがある
- ひどい発汗がある(寝汗を含む)
- 睡眠に問題がある(寝つきが悪い、途中で目が覚める)
- よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
- イライラする、怒りっぽくなった
- 神経質になった、落ち着きがない
- 不安感がある
- 身体的に消耗した感じがする、やる気が出ない
- 筋力が低下したと感じる
- 憂うつな気分になる
- 自分のピークは過ぎたと感じる
- 燃え尽きた感じ、どん底にいる感じがする
- ひげの伸びが遅くなった
- 性欲が低下した
- 勃起の頻度や質が低下した
- 朝立ちが減った
結果の目安
- 0〜5個: 現時点では大きな心配は不要。予防的な生活習慣改善を
- 6〜10個: LOH症候群の可能性あり。生活習慣の見直しを開始し、改善しなければ受診を
- 11個以上: LOH症候群の可能性が高い。早めに泌尿器科や男性更年期外来を受診することを推奨
注意: このチェックリストはあくまでスクリーニング目的です。正確な診断にはテストステロンの血液検査が必要です。うつ病や甲状腺機能低下症など、似た症状を示す他の疾患との鑑別も重要です。なお、このチェックリストは正式なAMSスコア(17項目・5段階評価)を簡略化したものであり、臨床的な診断には使用できません。
LOH症候群を改善する生活習慣
軽度〜中等度のLOH症候群であれば、生活習慣の改善だけで症状が大幅に改善するケースがあります。
1. 運動習慣を確立する
運動はテストステロンを自然に高める最も効果的な方法です( テストステロンを自然に増やす12の方法 で詳しく解説)。
- 筋力トレーニング: 週3回、大筋群を中心に。スクワットやデッドリフトなどの複合運動が特に有効
- 有酸素運動: 週150分以上の中等度運動。ウォーキングやジョギング
- ポイント: 過度な運動は逆効果。適度な強度と十分な休息を
複数の臨床試験では、 12週間の定期的な運動プログラムによりLOH症候群の症状スコアが有意に改善 したことが報告されています。
2. テストステロンを支える食事
栄養バランスの良い食事はホルモンの健康に不可欠です。
- 亜鉛を含む食品: 牡蠣、牛肉、ナッツ類(テストステロン合成に必須)
- ビタミンD: 鮭、きのこ類、日光浴(テストステロンとの正の相関が研究で確認)
- 良質な脂質: オリーブオイル、アボカド、青魚(ホルモンの原料)
- 抗酸化食品: 緑黄色野菜、ベリー類(酸化ストレスの軽減)
- 控えるもの: 過度な飲酒、加工食品、過剰な糖分
3. 睡眠の質を改善する
テストステロンの大部分は睡眠中に分泌されます。7〜8時間の質の高い睡眠を確保しましょう。
- 就寝時間と起床時間を一定にする
- 寝室を暗く、涼しく保つ(18〜20度が理想)
- 就寝2時間前にスマートフォンやPCの使用を控える
- カフェインは午後早めの時間まで
4. ストレスマネジメント
慢性的なストレスはコルチゾール値を上昇させ、テストステロン産生を抑制します。
- マインドフルネス瞑想: 1日10分から始める
- 適度な運動: 最も効果的なストレス解消法の一つ
- 社会的つながり: 友人や家族との交流はストレスを軽減する
- 趣味の時間: 自分が楽しめる活動に定期的に時間を使う
5. 適正体重を維持する
肥満(特に内臓脂肪型)はLOH症候群の主要なリスク因子です。脂肪組織に含まれるアロマターゼがテストステロンをエストロゲンに変換するため、 BMI 25以上の肥満男性はテストステロンが有意に低いことが知られています。
肥満研究のメタ分析では、 肥満男性が体重を10%減量したところ、テストステロンが平均15%上昇 したことが報告されています。
医療機関での診断と治療
生活習慣の改善を2〜3ヶ月続けても症状が改善しない場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
診断の流れ
- 問診: AMSスコアなどの質問票による症状評価
- 血液検査: 午前中の採血で総テストステロン・遊離テストステロンを測定
- 除外診断: うつ病、甲状腺疾患、糖尿病など他の疾患の鑑別
- 総合判断: 症状とホルモン値を総合的に評価
診断基準として、遊離テストステロン8.5 pg/mL未満 が一つの目安とされています(日本泌尿器科学会・日本Men's Health医学会ガイドライン)。
治療の選択肢
テストステロン補充療法(TRT) が中心的な治療法です。日本では主に以下の方法が用いられます。
- 注射療法: 2〜4週間ごとにテストステロン製剤を筋肉注射。最も一般的
- 塗布剤: テストステロンクリームを毎日皮膚に塗布。血中濃度を安定させやすい
TRTにより、倦怠感、性機能、気分、筋力などの症状が投与開始後3〜6ヶ月で改善 することが多いと報告されています。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 前立腺がんのスクリーニングが必須(PSA値の定期測定)
- 多血症のリスクがあり、定期的な血液検査が必要
- 精子形成が抑制される可能性があるため、挙児希望がある場合は要相談
- 睡眠時無呼吸症候群が悪化する可能性
受診のタイミングと診療科
以下の場合は早めの受診を検討してください。
- チェックリストで6個以上該当した
- 症状が日常生活や仕事に支障をきたしている
- 生活習慣の改善を2〜3ヶ月続けても改善しない
- 性機能の問題でパートナーとの関係が悪化している
- うつ症状が強い(この場合は精神科・心療内科の受診も検討)
受診先としては、泌尿器科や男性更年期外来 が最適です。近年は男性更年期専門外来を設ける医療機関が増えており、オンライン診療に対応しているクリニックもあります。
恥ずかしいことではありません。 LOH症候群は適切な治療で改善できる疾患です。一人で悩まず、専門家に相談してみてください。
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よくある質問
Q. 男性更年期障害は何歳から発症しますか?
一般的には40代後半〜60代に多いですが、強いストレスや肥満、不規則な生活習慣が重なると30代後半で発症するケースもあります。テストステロンの低下速度には個人差が大きく、80歳でもテストステロン値が正常な男性もいれば、40代で顕著に低下する方もいます。加齢だけでなく、生活習慣が大きく影響します。
Q. 男性更年期障害とうつ病はどう見分けますか?
症状が非常に似ているため、自己判断は困難です。LOH症候群では性欲低下や朝立ちの減少といった性機能症状が特徴的で、血液検査でテストステロン低値が確認されます。一方、うつ病ではテストステロンは正常範囲のことが多いです。両方を合併していることもあるため、泌尿器科と精神科の両方を受診することが理想的です。
Q. テストステロン補充療法の費用はどのくらいですか?
テストステロン補充療法は保険適用の場合、注射療法で1回あたり約1,000〜3,000円(2〜4週間ごと)です。自費診療の場合はクリニックにより異なりますが、月額5,000〜20,000円程度が目安です。初診では血液検査を含めて5,000〜15,000円程度かかることが一般的です。
Q. 男性更年期障害は治りますか?
はい、適切な治療と生活習慣の改善により、多くの方で症状の改善が見込めます。軽度の場合は生活習慣の改善(運動、食事、睡眠、ストレス管理)だけで改善するケースも多いです。中等度以上の場合はテストステロン補充療法との併用が効果的です。女性の更年期と異なり明確な終わりはありませんが、治療により長期的にQOL(生活の質)を維持することが可能です。
参考文献
- 日本泌尿器科学会・日本Men's Health医学会「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き」2022年
- Wu FC, et al. "Identification of late-onset hypogonadism in middle-aged and elderly men." N Engl J Med. 2010;363(2):123-135.
- Heinemann LA, et al. "The Aging Males' Symptoms (AMS) scale: update and compilation of international versions." Health Qual Life Outcomes. 2003;1:15.
- Corona G, et al. "Testosterone supplementation and body composition: results from a meta-analysis of observational studies." J Endocrinol Invest. 2016;39(9):967-981.
- Travison TG, et al. "A population-level decline in serum testosterone levels in American men." J Clin Endocrinol Metab. 2007;92(1):196-202.
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