クレアチン は、スポーツの栄養の分野で研究の多い成分の一つで、査読を受けた論文は500本を超えるとされています[2]。国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解(Kreider ら、2017年)は、補給で筋肉内のクレアチン濃度が上がることが一貫して示されており、それが高強度の運動の成績の向上を説明しうるとし、健康な人では短期・長期(1日30gまで・5年まで)の補給は安全で忍容性が高いとしています[1]。
一方で、「腎臓に悪い」「ハゲる」「水太りする」といった心配もよく聞かれます。この記事では、クレアチンについて研究で報告されていることと、研究で使われた飲み方を説明します。クレアチンは食品で、ここで紹介するのは、それぞれの試験の対象・人数・期間のもとでの報告です。根拠にした論文は PubMed で書誌と抄録を確かめ、総説の2本(Kreider 2017・Antonio 2021)は全文も読みました(2026年10月10日確認)。
クレアチンの作用機序
クレアチンとは
クレアチンは、アルギニン・グリシン・メチオニンの3つのアミノ酸から、腎臓と肝臓でつくられる物質で、食事では主に肉からとります[2]。体内のクレアチンの約95%は骨格筋にあり 、残りの約5%は脳や精巣などにあります[1]。
ATP-CP系とエネルギー供給
筋肉が収縮する際のエネルギー源はATP(アデノシン三リン酸)です。ATPが分解されてADP(アデノシン二リン酸)になると、クレアチンリン酸(CP)の分解で出るエネルギーを使ってATPが再合成 され、とくに全力で短く動く運動でATPを保つ助けになるとされています[1]。
31人の男性の試験(Hultman ら、1996年)では、1日20gを6日間とると、筋肉の総クレアチン量が約20%増え ました[3]。
研究で報告されている結果
筋力と挙上回数の研究
エビデンス:中レビューとメタ分析で伸びが大きいが、効果量は小さくばらつく参照: Rawson 2003、Branch 2003
筋トレとクレアチンの補給を組み合わせた22件の研究をまとめたレビュー(Rawson & Volek、2003年)では、筋力(1・3・10RM)の伸びはプラセボより平均8%大きく(20% 対 12%) 、一定の重さで挙げられる回数の伸びは平均14%大きいという結果でした(26% 対 12%)。ベンチプレスの1RMの伸びは3〜45%と幅があり、著者は反応のばらつきが大きいとしています[6]。
ランダム化・プラセボ対照・盲検の100件の研究をまとめたメタ分析(Branch、2003年)では、効果の大きさは全体に小さく、30秒以内の高強度運動をくり返す種目(筋トレなど)と上半身の運動で大きめでした。ランニングや水泳の成績には、はっきりした効果がみられませんでした[7]。
体重と除脂肪体重の研究
同じメタ分析(Branch、2003年)では、体重・除脂肪体重への効果は小さいものの有意 で、短期間(ローディングだけ)の補給で大きく出ました[7]。ただし、7日ほどの短期間の試験で除脂肪体重が増えたように見える分には、体内の水分の増加も含まれると考えられています[2]。
運動後の筋損傷のマーカーの研究
マラソンの経験がある走者が30kmのレースの前の5日間、1日20g(5gを1日4回)のクレアチンをとった試験(Santos ら、2004年)では、糖だけをとった対照の群に比べて、レース後の筋損傷のマーカー(CK)の上昇が19%小さく、炎症のマーカー(PGE2・TNF-α)の上昇も小さいという結果でした[8]。血液のマーカーを調べた試験で、筋トレの回復や、練習の頻度を上げられるかまでは調べていません。
認知機能の研究
菜食の若い成人45人に1日5gを6週間とってもらった、二重盲検・プラセボ対照のクロスオーバー試験(Rae ら、2003年)では、ワーキングメモリと知能検査の成績が上がったと報告されています[9]。肉を食べない人を対象にした1件の試験で、ふだん肉を食べる人に同じ結果が出るかは、この試験からは分かりません。
研究で使われた飲み方
ローディングプロトコル
筋肉内のクレアチン量を早く増やすために、研究で使われてきた方法です。
- ローディング期(5〜7日間):1日20g(Hultman ら、1996年は6日間)[2][3]
- メンテナンス期:その後は少量を続ける(Hultman らの試験では1日2gで増えた量が30日間保たれた[3]。推奨量は1日3〜5gまたは体重1kgあたり0.1g[2])
ローディング中は、体重が1〜3kg増えることが多く、主に体内の水分によるものです[2]。
ローディングなしの場合
ローディングを行わず、最初から1日3〜5g を続ける方法もあります。Hultman ら(1996年)の試験では、1日3gを28日間とると、ゆっくりと同じ約20%の増加に達しました[3]。国際スポーツ栄養学会の研究者のレビューも、1日3〜5gを少なくとも4週間 続ければ同じくらいまで増えるとして、ローディングは必須ではないとしています[2]。
摂取タイミング
- 炭水化物と一緒に :24人の男性の試験(Green ら、1996年)では、5gのクレアチンの30分後に約93gの糖をとることを1日4回・5日間続けると、筋肉にたまったクレアチンの増え方が、クレアチンだけより60%大きくなりました。インスリンの働きによると考えられています[4]
- たんぱく質と炭水化物と一緒に :12人の男性の試験(Steenge ら、2000年)では、約50gのたんぱく質と約47gの炭水化物でも、約96gの炭水化物と同じくらい、体にとどまるクレアチンの量が増えました(約25%)[5]。どちらもローディングの量(1日20g)の短い試験で、糖の量はかなり多めです
- 毎日続ける :Hultman ら(1996年)の試験では、補給をやめると、30日後には補給前の値に戻っていました[3]
クレアチンの種類
市場には様々な形のクレアチンがありますが、研究の大半はクレアチンモノハイドレート で行われています[2]。
- クレアチンモノハイドレート :最も研究されている形。とった量の約99%が体に取り込まれるか、そのまま尿に出るとされる[2]
- クレアチンの塩(塩酸塩など)・バッファードクレアチンなど、ほかの形 :同じ量で、モノハイドレートより筋肉のクレアチンを多く増やしたという査読論文は無いとされる[2]
副作用の真偽
「腎臓に悪い」は本当か?
エビデンス:中健康な人の試験と総説に基づく。腎臓の病気がある人の結論ではない参照: Antonio 2021、Poortmans 2000
Antonio らの総説(2021年)は、健康な人を対象にした研究では、推奨量のクレアチンで腎臓の障害を示す所見は報告されていない としています。腎臓の病気がある人については、この総説から結論できません。腎障害が報告された例は、薬、もともとの腎臓病、ほかのサプリメント、推奨量の100倍のような量、蛋白同化ステロイドなどが重なっていたとしています[2]。Poortmans と Francaux の総説(2000年)は、少人数のスポーツ選手を5日〜最長5年調べた報告では腎機能への悪影響は見つからなかったと整理しています。ただし、よく管理された有害事象の研究は少ないとし、アミノ基をもつ物質を大量にとると肝臓と腎臓の負担が増え、体質による反応が起きうるとして、補給中の定期的な確認を求めています[10]。
ISSN の見解は、念のため、もともと腎臓の病気がある人は飲む前に医師に相談するよう勧める意見があることを紹介しています[1]。腎機能が低下している人や、腎臓の病気で治療中の人は、飲む前に医師に相談してください。また、血液のクレアチニン値は腎機能の目安に使われますが、筋肉の量や食事からとるクレアチンの量でも変わり、クレアチンを飲むと上がることがあります[2]。健康診断などの血液検査では、クレアチンを飲んでいることを医師に伝えてください。
「ハゲる」は本当か?
エビデンス:中DHTが上がった試験が1件、髪を直接測った12週のRCTで差なし参照: van der Merwe 2009、Lak 2025
きっかけは、大学のラグビー選手20人の二重盲検・プラセボ対照のクロスオーバー試験(van der Merwe ら、2009年)で、1日25gを7日間、そのあと1日5gを14日間とると、ジヒドロテストステロン(DHT)が7日後に56%、21日後に40%、補給前より高くなったという報告です(テストステロンは変わらず)。この試験で測ったのは血液のホルモンと体組成で、髪の変化は調べていません[11]。
研究者による総説(Antonio ら、2021年)は、脱毛の心配の大半はこの1件の研究から来ていること、最後まで参加したのは16人だったこと、DHT の上昇は臨床的な正常範囲の中だったこと、補給前の DHT がクレアチンの群で低かったこと、人で脱毛を報告した研究は無いことを挙げています[2]。
その後、筋トレをしている18〜40歳の男性45人を、1日5gのクレアチンとプラセボ(マルトデキストリン)に無作為に分けた12週間の試験(Lak ら、2025年)では、最後まで参加した38人で、DHT、DHT とテストステロンの比、髪の密度・毛包単位の数・髪の太さの合計の指標のどれにも、2つの群の間に統計的に有意な差は示されませんでした。長い期間の脱毛のリスクは、この試験からは判断できません。著者は、クレアチンのあとに髪の状態を直接調べた最初の試験としています。12週間・38人の試験で、著者の一部にはサプリメントの会社の顧問などの利益相反があります[12]。この記事で確かめた資料の範囲では、クレアチンが脱毛を起こすという根拠は示されていません。
体重増加(水分貯留)
ローディング(1日20g・5〜7日)では、体重が1〜3kg増える ことが多く、主に体内の水分によるものです。5〜10週間のトレーニングの試験では、体内の水分量は増えなかったとする報告が複数あります。体脂肪については、1週間〜2年のランダム化比較試験で、クレアチンで体脂肪が増えるという説は裏づけられなかったとしています[2]。
プロテインとの併用
プロテイン(たんぱく質)と炭水化物と一緒にとると、体にとどまるクレアチンの量が増えた試験があります[5]。プロテインシェイクに混ぜて飲む方法もあります。筋肉の増え方に、プロテインとの組み合わせでどれだけ上乗せがあるかは、この記事では確かめていません。
まとめ
クレアチンは研究の多い食品成分で、筋トレと組み合わせた研究では、筋力の伸びがプラセボより大きいという報告があります[6][7]。健康な人を対象にした研究では、推奨量で腎臓の障害を示す所見は報告されていないとされています[2]。
- 補給で筋肉内のクレアチンが増え[3]、筋トレと組み合わせた研究では筋力の伸びが平均8%大きかった(22件の研究のレビュー。ばらつきが大きい)[6]
- 研究の大半はクレアチンモノハイドレート。ほかの形が上回るという査読論文は無いとされる[2]
- 1日3〜5gを続ければ、4週間ほどでローディングと同じくらいまで増えるとされ、ローディングは必須ではない[2][3]
- 腎臓の病気がある人は医師に相談[1]。脱毛の心配は1件の研究のDHTの変化から来ていて[2][11]、髪を直接測った12週間の試験ではプラセボとの差がなかった[12]
- ローディング中は水分で体重が1〜3kg増えることがある[2]
改訂履歴
2026年10月10日:本文の数字と記述を参考文献の番号で結び、参考文献に研究の種類・人数・限界を添え、判断ブロックを加えました。体脂肪について「6〜12週間の試験で変わらなかった」と書いていましたが、出典のレビュー(Antonio 2021)は、1週間〜2年のランダム化比較試験で体脂肪が増えるという説は裏づけられなかったとしているため、その書き方に直しました。バッファードクレアチンについて「体組成・トレーニングの効果でモノハイドレートを上回らなかった」と書いていましたが、出典のレビューの本文が述べているのは「同じ量で筋肉のクレアチンを多く増やしたという査読論文は無い」ことなので、クレアチンの塩と同じ項目にまとめて直しました。脱毛の節には、van der Merwe 2009 で最後まで参加したのは16人だったこと、補給前の DHT がクレアチンの群で低かったこと、髪の変化は調べていないことを足し、髪を直接測った2025年のランダム化比較試験(Lak 2025)を加えました。腎臓の節の「医師に相談」には ISSN の見解の該当箇所を添えました。食品の研究の紹介であることが分かるよう、「効果」「促進」としていた見出しを「研究」に改めました。腎臓についての記述を「健康な人を対象にした研究では障害を示す所見は報告されていない」という総説の範囲に直し、Poortmans 2000 が総説であること、Lak 2025 が示したのは統計的な有意差がなかったことまでであることを明記しました。
2026年10月5日:研究の数字を論文の抄録に合わせて直しました(「筋力が平均8%、筋パワーが平均14%向上(Rawson & Volek 2003)」→ 筋力の伸びがプラセボより8%大きく、一定の重さで挙げられる回数の伸びが14%大きかった、「除脂肪体重が平均0.36%多く増加(Branch 2003)」→ 効果は小さいが有意、「CP貯蔵量が20〜40%増加(Hultman 1996)」→ 筋肉の総クレアチン量が約20%増加)。「睡眠不足やストレス下の認知機能」「トレーニング後のインスリン感受性」など出典を確かめられなかった記述は削除しました。脱毛と体重増加の説明は、研究者による総説(Antonio ら、2021年)に合わせて直し、参考文献の節を足しました。
参考文献
- Kreider 2017: Kreider RB, Kalman DS, Antonio J, et al. International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine. J Int Soc Sports Nutr. 2017;14:18. PubMed: 28615996(2026年10月10日確認。全文は PMC5469049) (学会の見解をまとめた総説。作成は Council for Responsible Nutrition の支援による〔論文の Funding 欄〕。筆頭著者に企業からの研究費などの利益相反がある)
- Antonio 2021: Antonio J, Candow DG, Forbes SC, et al. Common questions and misconceptions about creatine supplementation: what does the scientific evidence really show? J Int Soc Sports Nutr. 2021;18(1):13. PubMed: 33557850(2026年10月10日確認。全文は PMC7871530) (研究者による総説。著者の多くに、クレアチンを製造・販売する企業の顧問や研究費などの利益相反がある)
- Hultman 1996: Hultman E, Söderlund K, Timmons JA, Cederblad G, Greenhaff PL. Muscle creatine loading in men. J Appl Physiol. 1996;81(1):232-237. PubMed: 8828669(2026年10月10日確認) (臨床試験、男性31名を複数の飲み方に分けて筋肉のクレアチン量を測定。運動の成績の変化は抄録に記載なし。抄録のみ確認)
- Green 1996: Green AL, Hultman E, Macdonald IA, Sewell DA, Greenhaff PL. Carbohydrate ingestion augments skeletal muscle creatine accumulation during creatine supplementation in humans. Am J Physiol. 1996;271(5 Pt 1):E821-826. PubMed: 8944667(2026年10月10日確認) (試験、男性24名、5日間。クレアチンだけの群と糖を足した群の比較で、運動の成績は抄録の測定項目にない。抄録のみ確認)
- Steenge 2000: Steenge GR, Simpson EJ, Greenhaff PL. Protein- and carbohydrate-induced augmentation of whole body creatine retention in humans. J Appl Physiol. 2000;89(3):1165-1171. PubMed: 10956365(2026年10月10日確認) (試験、男性12名で4通りの組み合わせを比べた短期の試験。抄録の結果は体全体のクレアチンの保持量で、筋肉の量の変化は記載なし。抄録のみ確認)
- Rawson 2003: Rawson ES, Volek JS. Effects of creatine supplementation and resistance training on muscle strength and weightlifting performance. J Strength Cond Res. 2003;17(4):822-831. PubMed: 14636102(2026年10月10日確認) (筋トレとの併用を調べた22件の研究のレビュー。反応のばらつきが大きい。2003年までの研究が対象。抄録のみ確認)
- Branch 2003: Branch JD. Effect of creatine supplementation on body composition and performance: a meta-analysis. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2003;13(2):198-226. PubMed: 12945830(2026年10月10日確認) (ランダム化・プラセボ対照・盲検の100件の研究〔96論文〕のメタ分析。効果量は小さく、2003年までの研究が対象。抄録のみ確認)
- Santos 2004: Santos RV, Bassit RA, Caperuto EC, Costa Rosa LF. The effect of creatine supplementation upon inflammatory and muscle soreness markers after a 30km race. Life Sci. 2004;75(16):1917-1924. PubMed: 15306159(2026年10月10日確認) (試験、マラソンの経験がある走者、レース前の5日間。人数と割り付けの方法は抄録に記載なし。測ったのは血液のマーカー。抄録のみ確認)
- Rae 2003: Rae C, Digney AL, McEwan SR, Bates TC. Oral creatine monohydrate supplementation improves brain performance: a double-blind, placebo-controlled, cross-over trial. Proc Biol Sci. 2003;270(1529):2147-2150. PubMed: 14561278(2026年10月10日確認) (二重盲検・プラセボ対照のクロスオーバー試験、菜食の若い成人45名、6週間。肉を食べる人は含まれない。抄録のみ確認)
- Poortmans 2000: Poortmans JR, Francaux M. Adverse effects of creatine supplementation: fact or fiction? Sports Med. 2000;30(3):155-170. PubMed: 10999421(2026年10月10日確認) (総説。腎機能の調査は少人数のスポーツ選手が対象で、期間は5日〜最長5年。著者は、よく管理された副作用の研究はほとんど無いとしている。抄録のみ確認)
- van der Merwe 2009: van der Merwe J, Brooks NE, Myburgh KH. Three weeks of creatine monohydrate supplementation affects dihydrotestosterone to testosterone ratio in college-aged rugby players. Clin J Sport Med. 2009;19(5):399-404. PubMed: 19741313(2026年10月10日確認) (二重盲検・プラセボ対照のクロスオーバー試験、南アフリカの大学ラグビー選手20名、3週間。最後まで参加したのは16名〔Antonio 2021 による〕。髪の変化は調べていない。抄録のみ確認)
- Lak 2025: Lak M, Forbes SC, Ashtary-Larky D, et al. Does creatine cause hair loss? A 12-week randomized controlled trial. J Int Soc Sports Nutr. 2025;22(sup1):2495229. PubMed: 40265319(2026年10月10日確認) (RCT、筋トレをしている18〜40歳の男性45名〔最後まで参加したのは38名〕、12週間。筆頭著者の所属はイラン。著者の一部にサプリメントの会社の顧問などの利益相反がある。抄録のみ確認)
