「最近、抜け毛が増えた気がする」「シャンプー時に排水溝にたまる髪が多い」——そんな違和感の正体は、AGA(男性型脱毛症)かもしれません。日本皮膚科学会の診療ガイドラインは、日本人男性の発症頻度を全年齢平均で約30%と書いています。本記事では、AGAの定義・仕組み・進行度の見方を、日本皮膚科学会の診療ガイドラインと査読論文を一次情報源に、編集部が整理しました。
AGAとは何か:定義と疫学データ
エビデンス:限定的定義はガイドライン、年代別の発症頻度は2004年の意識調査が出典参照: 日本皮膚科学会のガイドライン
AGA(男性型脱毛症)の定義
AGAは Androgenetic Alopecia の略で、日本語では「男性型脱毛症」と呼ばれます。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」(以下、ガイドライン)は、冒頭の「背景と目的」で男性型脱毛症を「思春期以降に始まり徐々に進行する脱毛症である」と書き、「疾患概念」の項で次のように説明しています。
男性型脱毛症とは,毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり,休止期にとどまる毛包が多くなることを病態の基盤とし,臨床的には前頭部や頭頂部の頭髪が,軟毛化して細く短くなり,最終的には頭髪が皮表に現れなくなる現象である.
髪が一本ずつ細く短くなっていき、薄くなる場所が前頭部と頭頂部に集まる。これが加齢で全体の量が減るのとは違う、AGAの特徴です。
日本人男性の発症率:年代別データ
日本皮膚科学会のガイドライン(2017年版)は、日本人男性の発症頻度を全年齢平均で約30%(出典は1981年の報告)とし、年代別では20代で約10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40数%と年齢とともに高くなると記載しています。年代別の数字の出典は2004年の意識調査(アンケート)で、医師が診断して数えた有病率ではありません。
20代でも一定の割合で見られるため、年齢だけで「自分は違う」と判断することはできません。薬を使える年齢や、始める時期と進行度の関係は AGA治療は何歳から始める? で整理しています。
AGAの原因:DHT(ジヒドロテストステロン)の作用機序
エビデンス:限定的仕組みはガイドラインの「病態」の項の説明。個別の研究の数値は扱わない参照: 日本皮膚科学会のガイドライン
テストステロンから変換される DHT
ガイドラインの「病態」の項によると、男性ホルモンはひげや胸毛などを濃くする方向に働く一方、前頭部や頭頂部の男性ホルモン感受性毛包では、逆に毛を細くする(軟毛化)方向に働きます。
その仕組みとしてガイドラインが説明しているのは次の流れです。前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞に運ばれたテストステロンが、Ⅱ型 5α還元酵素(5α-リダクターゼ)の働きで、より活性の高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、男性ホルモン受容体に結合します。DHT が結合した受容体は TGF-β や DKK1 などを誘導し、毛をつくる毛母細胞の増殖が抑えられて成長期が短くなることが報告されている、とガイドラインは書いています。
成長期が短くなると、毛は太く長く育つ前に抜け替わります。これをくり返すうちに毛が細く短くなり、上の定義にあるとおり、最終的には頭髪が皮膚の表面に出てこなくなります。
5α還元酵素にはⅠ型とⅡ型がある
5α還元酵素にはⅠ型とⅡ型があります。ガイドラインは、フィナステリドをⅡ型 5α還元酵素の阻害剤、デュタステリドをⅠ型・Ⅱ型両者に対する阻害剤と説明しています。
2つの薬の効果の差について、ガイドラインは国際臨床試験の結果を紹介したうえで「両者の効果差については今後さらなる検討を要する」と書いています。阻害する酵素の型が違うことから効果の差を言い切ることはできません。試験結果・副作用の違いは デュタステリドとフィナステリドの違い で整理しています。
遺伝要因:X染色体と常染色体の両方
ガイドラインは、男性型脱毛症の発症には遺伝と男性ホルモンが関与すると書いています。遺伝的な背景として挙げているのは、X染色体上にある男性ホルモン受容体遺伝子の多型と、常染色体の 17q21 や 20p11 にある疾患関連遺伝子です。
男性の X 染色体は母親から受け継ぎますが、常染色体は父母の双方から受け継ぎます。「父親が薄毛かどうか」だけで自分の見通しが決まるわけではありません。家族歴は、医師が診断のときに問診で聞く項目の一つです。
AGA の進行パターン:ハミルトン・ノーウッド分類
エビデンス:限定的分類は観察にもとづく記述の枠組み。段階の定義は総説が紹介する原著の記述参照: Norwood 1975、Gupta 2016
分類の概要
進み具合を表す物差しとしてよく使われるのがハミルトン・ノーウッド分類です。1951年のハミルトンの分類をもとに、ノーウッドが1975年に白人の成人男性1,000名の観察から組み直しました(Norwood 1975)。日本での扱いについて、ガイドラインの「診断」の項は次のように書いています。
わが国では男性型脱毛症の分類として緒方の分類,欧米ではNorwoodの分類があるが,現在わが国ではNorwoodの分類に高島分類の頭頂部が薄くなるⅡvertexを加えた分類が広く使用されている.
段階の見方
段階は、生え際(前側)と頭頂部の2か所の薄くなり方の組み合わせで決まります。分類の総説(Gupta 2016)が紹介するノーウッドの記述をもとに、編集部が要約すると次のとおりです。
- Ⅰ:生え際の後退がほとんどない
- Ⅱ:額の両端(こめかみの上)が三角形に後退する。多くは左右対称
- Ⅱvertex(日本):頭頂部が薄くなる型。日本でノーウッド分類に加えて使われる
- Ⅲ:ノーウッドが「薄毛(baldness)」とみなす最小の段階
- Ⅲvertex:主に頭頂部が薄くなる。生え際の後退は限られる
- Ⅳ:生え際の後退がⅢより進み、頭頂部の毛もまばらか、ない
- Ⅴ:頭頂部と前側の薄い範囲はまだ分かれているが、境目がはっきりしなくなる
- Ⅵ:頭頂部を横切っていた毛の帯がなくなり、まばらな毛だけが残る
- Ⅶ:最も進んだ段階。側頭部と後頭部に、馬蹄形の細い帯だけが残る
生え際が目立たなくても頭頂部が薄くなる人は、Ⅱvertex・Ⅲvertexのような頭頂部の型に入ります。定義の原文と、自分で当てはめるときの注意は ノーウッド分類の段階の見方 にまとめています。
進み方について分かっていること
エビデンス:限定的経過はガイドラインの記載。始めた時点と結果の関係は観察研究1件で、因果は未検証参照: 日本皮膚科学会のガイドライン、Yoshitake 2015
ガイドラインが書いている経過
ガイドラインの「疾患概念」の項は、日本人男性の経過を次のように書いています。
日本人男性の場合には20歳代後半から30歳代にかけて著明となり,徐々に進行して40歳代以後に完成される.
これは日本人男性全体の傾向を示した記述です。一人ひとりが何年で次の段階に進むかを、同じ人を追って示した一次資料は、今回の確認範囲では見当たりませんでした。進み方には個人差があります。
始めた時点の年齢・進行度と治療の結果
日本人男性801名がフィナステリド1mg/日を5年間続けた経過を写真で評価した観察研究(Yoshitake 2015)では、治療開始時に40歳以上であることと、開始時の進行度が高いことが、それぞれ効果不十分と関係していました。ガイドラインもこの研究を引いて「40歳未満の症例,重症度の低い症例でより高い効果を示した」と書いています。ただし、始めた時点が違う別々の人を比べた関連で、同じ人が待った場合との差を測ったものではありません。
セルフチェック:自分はAGAか?
エビデンス:限定的サインはガイドラインの診断の記述をもとにした整理で、判別精度を検証した研究の引用はない参照: 日本皮膚科学会のガイドライン
医師が診断で確かめること
ガイドラインは、診断のしかたを次のように書いています。
男性型脱毛症の診断は問診により家族歴,脱毛の経過などを聴き,視診により額の生え際が後退し前頭部と頭頂部の毛髪が細く短くなっていることを確認する.拡大鏡やダーモスコピーの使用も診断の手助けとなる.
これに沿って、自分で見ておけるサインを並べると次のとおりです。
- 抜け毛の変化:細く短い毛が混ざるようになった
- 生え際の後退:こめかみの上が後退した、または額が広く感じる
- 頭頂部の透け:明るい場所で頭頂部の地肌が見える
- 家族歴:家族や親族に薄毛の人がいる
- 経過:3〜6ヶ月前の写真と比べてボリュームが減った
いくつ当てはまればAGA、という基準を検証した研究はありません。当てはまるものがあれば、写真とメモを持って皮膚科または AGA 専門クリニックで相談する材料にしてください。受診前の確認項目は AGAのセルフチェック方法 でも整理しています。
AGA 以外の脱毛症との見分け
脱毛症には円形脱毛症など複数の種類があり、原因と治療法が異なります。円形に抜けた、急に大量に抜けた、頭髪以外も抜けている、頭皮に赤みやかゆみがある、といった場合は AGA 以外の脱毛症の可能性もあります。判断に迷う場合は、自己判断せず皮膚科を受診してください。
AGAだと感じたら:次のステップ
エビデンス:限定的推奨度の紹介のみ。各薬剤の効果の大きさは本記事に記載なし参照: 日本皮膚科学会のガイドライン
ガイドラインが推奨度Aとする治療
日本皮膚科学会のガイドライン(2017年版)では、フィナステリド・デュタステリドの内服とミノキシジルの外用が、いずれも 推奨度A(行うよう強く勧める)と評価されています(ミノキシジルの内服は国内未承認で推奨度D)。
- 内服薬(フィナステリド・デュタステリド):テストステロンを DHT に変換する 5α還元酵素を阻害する薬(フィナステリドはⅡ型、デュタステリドはⅠ型とⅡ型)
- 外用薬(ミノキシジル):頭皮に塗る薬。ガイドラインは男性型脱毛症には5%ミノキシジルを推奨している
- 併用:内服薬と外用薬を組み合わせる方法もある(併用そのものを評価したガイドラインの項目はない)
ガイドラインはフィナステリドについて「内服を中止すると効果は消失する」とも書いています。続けることが前提の治療なので、費用や副作用も含めて医師と相談して決めます。治療法ごとの費用と選び方は AGA治療の種類と選び方ガイド に、フィナステリドの詳細は フィナステリドの効果と副作用 にまとめています。
相談の窓口
AGA かどうか、治療を始めるかどうかは、診察を受けて決めることです。皮膚科のほか、AGA 専門クリニックには無料カウンセリングやオンライン診療を設けているところもあり、自宅から現状を相談できます。
まとめ:AGA を正しく理解することが第一歩
- AGAは、成長期が短くなって前頭部や頭頂部の毛が細く短くなっていく脱毛症。ガイドラインは思春期以降に始まり徐々に進行すると書いている
- 日本人男性の発症頻度は全年齢平均で約30%。年代別の「20代約10%」などは2004年の意識調査が出典
- 前頭部・頭頂部では、テストステロンがⅡ型 5α還元酵素で DHT に変換され、成長期を短くする方向に働く
- 遺伝の背景として、X染色体上の男性ホルモン受容体遺伝子と、常染色体上の遺伝子が知られている
- 進み具合はノーウッド分類(日本ではⅡvertexを加えた形)で表す
- 日本人801名の観察研究では、開始時40歳以上と開始時の進行度が、それぞれ効果不十分と関係していた(因果は未検証)
- フィナステリド・デュタステリドの内服とミノキシジルの外用は、ガイドラインで推奨度A
Re:Men では、AGA 治療薬の比較やクリニックの選び方を編集部リサーチでまとめています。次のステップとして、自分に合ったクリニックを 5 問 30 秒で診断する無料ツールも用意しています。
改訂履歴
2026年9月27日:ガイドライン原本・論文抄録と照合して改訂しました。ガイドラインにない文言を引用の形で示していた箇所、出典を確認できなかった記述(毛包の消失と治療の関係、5α還元酵素の型ごとの分布、双子研究、日本人に多い進行型、進行速度の要因、セルフチェックの「3つ以上」の目安)を削除し、ノーウッド分類の段階の説明を総説にもとづく定義にそろえました。
参考文献
- 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」日本皮膚科学会雑誌 127(13): 2763-2777(背景と目的/疾患概念・年代別の頻度/病態/診断と分類/表1 CQ一覧と推奨度/CQ1・CQ2・CQ3 解説). https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf(2026年9月確認)
- Norwood 1975: Norwood OT. Male pattern baldness: classification and incidence. South Med J. 1975;68(11):1359-1365.(PMID: 1188424)
- Gupta 2016: Gupta M, Mysore V. Classifications of Patterned Hair Loss: A Review. J Cutan Aesthet Surg. 2016;9(1):3-12.(PMID: 27081243)
- Yoshitake 2015: Yoshitake T, et al. Five-year efficacy of finasteride in 801 Japanese men with androgenetic alopecia. J Dermatol. 2015;42(7):735-738.(PMID: 25903108)
