「子どもがなかなかできない」——不妊の原因は女性側にあると考えられがちですが、欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインは、不妊のカップルの約 50%で男性側の因子が見つかるとしています[3]。
この記事では、男性不妊の主な原因と精液検査の基準値の意味、生活習慣とサプリメントについて研究で分かっていることを、WHOの資料とEAUのガイドライン、臨床試験の論文で確かめた範囲で整理します。ガイドラインは欧州の学会のもので、日本の保険制度や診療の体制は反映されていません。検査と治療の方針は、受診した医療機関の医師が判断します。
男性不妊とは?現状と基礎知識
WHOは、避妊せずに定期的な性交を12か月以上続けても妊娠しない状態を不妊と定義し、生殖年齢の人のおよそ6人に1人が生涯のうちに不妊を経験すると推定しています[1]。6人に1人は世界全体の推計です。
男性因子の頻度
EAUのガイドラインは、不妊のカップルの約50%で男性側の因子が見つかり、男性側の因子だけのカップルは約 20% としています。そのため、不妊のカップルでは男性も、男性不妊に詳しい泌尿器科医の診察を受けるよう勧めています[3]。
精液検査の基本項目
EAUのガイドラインは、男性の評価に、問診・診察・精液検査・ホルモンの検査を含めるとしています[3]。精液検査について、WHOが2021年に出したマニュアル(第6版)は、パートナーが1年以内に自然に妊娠した男性約3,500人(12か国)のデータから、分布の下から5%にあたる値(5パーセンタイル)を次のように示しています[2]。
- 精液量: 1.4 mL
- 精子濃度: 1,600万/mL
- 総精子数: 3,900万
- 運動率(前進運動と非前進運動の合計): 42%
- 正常形態率: 4%
WHOのマニュアルは、この値が妊娠できる人とできない人を分ける境界ではないと明記しています。値を上回っていても妊娠が約束されるわけではなく、下回っていても妊娠しないとは限りません。また同じマニュアルは、1回の検査の結果で次の検査の方針を決めてよいとする根拠がある一方、その人の基準となる値を正確に知るには2〜3回の検査が必要になることがあるとしています[2]。
男性不妊の主な原因
EAUのガイドラインは、男性の妊よう性を損なう条件として、生まれつきや後天的な泌尿生殖器の異常、遺伝的な異常、悪性腫瘍、泌尿生殖器の感染症、精索静脈瘤、陰嚢の温度の上昇、内分泌の異常、免疫の要因、陰嚢の手術などの治療によるもの、放射線や抗がん剤などを挙げています。また、30〜40%の例では、精液の所見の悪さを説明する男性側の因子が見つからないとしています(以前は「特発性」と呼ばれてきたもの)[3]。
精索静脈瘤(バリコセル)
精巣のまわりの静脈が広がった状態です。EAUのガイドラインによると、一般の男性の約15%、精液検査で異常のある男性の25%、不妊で受診した男性の 35〜40% に見つかります。不妊とどう結びつくかは正確には分かっていませんが、陰嚢の温度の上昇などが精巣の働きを損なうと考えられています[3]。
EAUのガイドラインは、触って分かる程度の精索静脈瘤があり、精液検査に異常があり、ほかに原因が見当たらない不妊の男性(女性パートナーの卵巣の予備能が保たれている場合)には治療を勧めています。一方、精液検査が正常な人や、触っても分からない程度の精索静脈瘤の人には治療しないよう勧めています[3]。
生活習慣・環境要因
WHOは、喫煙・過度の飲酒・肥満を、妊よう性に影響しうる生活習慣に挙げています[1]。EAUのガイドラインは、それぞれについて次の研究を紹介しています[3]。
- 喫煙: 20件の研究(5,865人)をまとめたメタ解析で、喫煙と精子の所見の悪さとの関連が示されています[3]
- 飲酒: 15件の横断研究(16,395人)をまとめたメタ解析では、適度な飲酒は精液の所見に悪影響がなく、多量の飲酒は妊よう性に悪影響がありうるとされました。1日2杯を超える飲酒を長く続けると、テストステロンが下がることがあります[3]
- 肥満: 減量で精液の所見が良くなったとする研究は対照群のないものが中心で、無作為化試験の結果は一致していません。高度な肥満の男性で、減量手術のあとに精子の質が良くならなかったというメタ解析(28件のコホート研究、1,022人)もあります[3]
加齢の影響
女性の年齢が妊よう性に大きく影響することは広く知られていますが、EAUのガイドラインは、父親の年齢が高いことも男性不妊の危険因子の一つとしています。約1万件の精液を調べたコホート研究では、年齢の高い群で精子のDNAの断片化が多かったとされています[3]。
食事と精子の質の関係
Salas-Huetosら(2017年、Human Reproduction Update誌)は、食事と精液の所見の関係を調べた観察研究35件をまとめたシステマティックレビューを発表しました。対象は、不妊の男性や精液の所見に異常のある男性などを含む研究で、無作為化試験は除かれています。この研究では、以下の関連が報告されています[4]。
- 魚介類、鶏肉、穀物、野菜、果物、低脂肪の乳製品は、いくつかの精液の所見の良さと関連
- 加工肉、大豆食品、じゃがいも、全脂肪の乳製品、チーズ、コーヒー、アルコール、甘い飲み物、菓子の多い食事は、一部の研究で精液の所見の悪さと関連
- オメガ3脂肪酸、ビタミンE・C、セレン、亜鉛、ビタミンD、葉酸などを多く含み、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の少ない食事は、精液の所見が悪いことと逆の関連(こうした食事の人ほど、所見の悪さが少ない)
ただし、いずれも観察研究で、著者自身が「関連は示せても因果は示せない」とし、大規模な前向きの研究と無作為化試験で確かめる必要があるとしています[4]。
生活習慣と精液の所見
運動
EAUのガイドラインは、中程度から高い強度の余暇の運動をしている人で精液の所見が良かったとするメタ解析を紹介しています。運動はホルモンの状態を良くする可能性もあるとしています[3]。
サプリメントの試験
葉酸・亜鉛の配合と抗酸化成分の配合をそれぞれ調べたランダム化比較試験では、出生や主な精液所見の改善は示されませんでした[5][6]。
- 葉酸と亜鉛(FAZST試験): 不妊治療を予定していた米国のカップル2,370組で、男性が葉酸5mgと亜鉛30mgを毎日6か月飲む群とプラセボ群を比べました。出生は34%と35%で差がなく、精子の濃度・運動率・形態・精液量も差がありませんでした。精子のDNAの断片化はサプリメントの群でわずかに多く(29.7%と27.2%)、腹部の不快感や吐き気もサプリメントの群で多くみられました。6か月後に精液を調べられたのは1,629人(69%)です(Schistermanら、2020年)[5]
- 抗酸化成分の配合品(MOXI試験): 精液の所見に異常のある(精子のDNAの断片化が多い人を含む)男性174人で、ビタミンC・E、セレン、L-カルニチン、亜鉛、葉酸、リコピンの配合品とプラセボを比べました。3か月後、精子の形態・運動率・DNAの断片化の変化に差はなく、精子の濃度は配合品の群で中央値が1mLあたり400万減り、プラセボ群で240万増えました。6か月までの出生は15%と24%で差がなく、著者は、抗酸化成分は精液の所見を改善しないと結論しています。人数が少ないことは著者も限界に挙げています(Steinerら、2020年)[6]
- 抗酸化成分のシステマティックレビュー: 90件の試験(10,303人)をまとめたコクランレビューでは、出生が増える可能性が示されたものの、出生を報告した試験は12件(1,283人)で、根拠の確かさは「非常に低い」と判定されました。バイアスのリスクが高い試験を除くと、出生が増えるという根拠はありませんでした。著者は、現時点の根拠では結論が出ないとしています(de Lignyら、2022年)[7]
サプリメントは食品で、不妊の治療薬ではありません。EAUのガイドラインは、不妊のカップルでは男性も泌尿器科医の評価を受けるよう勧めています[3]。
サプリメントの商品(食品)
以下は食品(サプリメント)です。不妊の治療や、精子の質を良くする目的のものではありません。
泌尿器科を受診すべきタイミング
以下のいずれかに該当する場合は、泌尿器科(男性不妊外来)の受診を検討しましょう。
- 避妊せずに1年以上妊娠しない場合(WHOの不妊の定義と、EAUが評価を始める目安)[1][3]
- 女性パートナーが35歳を超えている場合は、卵巣の予備能が下がりうるため、6か月で検査を始めるかを相談する(EAUのガイドラインは、議論のある点としています)[3]
- 停留精巣(精巣が陰嚢に下りていなかった)、精巣のねじれやけが、性感染症を含む泌尿生殖器の感染、精巣の手術、抗がん剤・放射線・蛋白同化ステロイドの使用の経験がある場合(EAUが問診で確かめる項目に挙げているもの)[3]
- 精巣のしこりは、EAUが診察で確かめる項目に、がんを疑う所見になりうるものとして挙げています[3]。しこりや腫れに気づいたときは、妊活の予定とは別に医療機関で相談してください
EAUのガイドラインは、問診・診察・精液検査に加えて、ホルモンの検査(FSH・LH・テストステロンなど)を行い、遺伝子の検査や画像の検査(陰嚢の超音波など)は、診察と精液検査の結果に応じて必要になることがあるとしています。染色体の検査は、精子が無い人や、精子の濃度が1mLあたり1,000万未満の人で行うとされています。精子のDNAの断片化の検査は、治療の結果を確実に予測できるとはまだ言えず、すべての人に勧めるかは議論があるとしています[3]。
テストステロンの低下が気になる方は、「 テストステロンと生活習慣の記事 」も併せてご覧ください。性の悩みに関するその他の情報は「 性の悩みカテゴリ」でまとめています。
よくある質問
Q. 精液検査は1回で十分ですか?
WHOのマニュアル(第6版)は、1回の検査の結果で次の検査の方針を決めてよいとする根拠がある一方、その人の基準となる値を正確に知るには2〜3回の検査が必要になることがあるとしています。採取の前の禁欲期間は2〜7日が勧められていますが、同じマニュアルは、この幅が臨床の経験に基づくもので、結果のばらつきの一因になりうるとも書いています[2]。検査の回数と時期は、検査を受ける医療機関の指示に従ってください。
Q. サプリメントで精子の質は良くなりますか?
葉酸と亜鉛を6か月飲んだ2,370組の試験では、出生率と主な精液所見に改善はなく、DNA断片化率は介入群のほうが高い結果でした。抗酸化成分の配合品を飲んだ174人の試験でも、出生率と精子の形態・運動率・DNA断片化に改善は示されませんでした[5][6]。小規模な試験を含めたコクランレビューは、結論が出ないとしています[7]。サプリメントは食品で、治療の代わりにはなりません。
Q. 男性不妊は治療で改善できますか?
原因によります。EAUのガイドラインは、精液検査に異常があり、触って分かる程度の精索静脈瘤があって、ほかに原因が見当たらない場合には手術などの治療を勧めており、治療で妊娠率と精子の濃度が改善しうるとしています。下垂体からのホルモンが足りないために精子が作られない場合は、hCGとFSHというホルモンの注射による治療があります。人工授精や体外受精などの生殖補助医療と手術のどちらを選ぶかは、女性パートナーの年齢と卵巣の予備能も踏まえて決めるとしています[3]。
改訂履歴
2026年10月10日:本文の数字と記述を参考文献と1対1で結び、参考文献に研究の種類・人数・限界を書き添えました。食事のレビューの3つ目の項目を「精液の所見が悪いこととの関連が弱い」としていたのは誤りで、レビューの抄録は「逆の関連がある(こうした食事の人ほど所見の悪さが少ない)」としていたため直しました。MOXI試験の「精子の濃度の変化はむしろプラセボ群のほうが良い結果」は、抄録の数値(配合品の群で中央値が1mLあたり400万減り、プラセボ群で240万増えた)に置き換えました。「原因の分からない特発性も少なくありません」はEAUの「30〜40%」に、検査の一覧(ホルモン・超音波・染色体・DNAの断片化)はEAUの書き方(画像や遺伝子の検査は結果に応じて、DNAの断片化の検査は勧めるかに議論がある)に直しました。「スマートフォンのポケット携帯」の質問は、出典がなく、ズボンの前ポケットを避けるという助言も出典の範囲を超えていたため削除しました。「精巣に痛みや腫れがある場合」の項目は、EAUが診察の項目に挙げる精巣のしこりの記述に結びつけました。本文で使っていなかった2012年版のEAUガイドラインの論文は参考文献から外しました。サプリメントの試験の結果は、試験と評価項目ごとに書き分け、「妊活サプリに多い」という出典のない記述を外しました。
2026年10月5日:「WHOの2023年の報告書によると不妊カップルの約50%に男性側の要因」は、WHOの資料に無く、EAUのガイドラインの記載(男性側の因子は約50%、男性側だけは約20%)に直しました。サプリメントの摂取量の目安と「精子濃度・運動率への効果を示す研究が比較的多い」「亜鉛との併用で精子濃度の改善」などの記述は、葉酸と亜鉛の大規模試験(FAZST、2020年)で精液の所見も出生も改善しなかったことと合わないため削除し、試験の結果に置き換えました。食事のレビューの掲載誌を Human Reproduction Update に直し、精液検査の基準値がWHOのマニュアルで妊よう性の境界ではないとされていることを書き足しました。運動の量・睡眠時間・陰嚢の温度・ストレス・「40歳以降」などの出典を確かめられなかった数字と推奨は削除しました。
参考文献
- World Health Organization. Infertility (fact sheet). 28 November 2025. WHOのページ(2026年10月10日確認)(公的機関のファクトシート。6人に1人は世界全体の推計で、日本の数字ではない。男性側の因子の割合は書かれていない)
- World Health Organization. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen. 6th ed. 2021.(2.1 Introduction、8.1.1、Table 8.3、8.1.3) WHO IRIS(2026年10月10日確認)(検査法のマニュアル。基準値の表は12か国の約3,500人の男性のデータで、パートナーが1年以内に自然に妊娠した人に限られる。値は妊娠できるかどうかの境界ではないと明記されている)
- European Association of Urology. EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health, 2026 edition. Chapter 11: Male Infertility. uroweb.org(2026年10月10日確認)(欧州の学会の診療ガイドライン。2026年版は2025年版の限定的な改訂。日本の保険制度や診療の体制は反映されていない。本文で引いた人数・割合はガイドラインが引用した個々の研究のもので、元の論文は確かめていない)
- Salas-Huetos A, Bulló M, Salas-Salvadó J. Dietary patterns, foods and nutrients in male fertility parameters and fecundability: a systematic review of observational studies. Human Reproduction Update. 2017;23(4):371-389. PubMed: 28333357(観察研究35件のシステマティックレビュー、2016年11月までの文献。無作為化試験は除外。関連を示すもので因果は示せない。抄録のみ確認)
- Schisterman EF, Sjaarda LA, Clemons T, et al. Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;323(1):35-48. PubMed: 31910279(RCT、米国4施設の不妊治療を予定したカップル2,370組、男性が6か月服用。精液の所見に異常のある男性に限らない。6か月後に精液を調べられたのは1,629人〔69%〕。患者背景の表の2行の入れ替えについて訂正が出ている。本文の数字は抄録による)
- Steiner AZ, Hansen KR, Barnhart KT, et al. The effect of antioxidants on male factor infertility: the Males, Antioxidants, and Infertility (MOXI) randomized clinical trial. Fertil Steril. 2020;113(3):552-560.e3. PubMed: 32111479(二重盲検RCT、米国9施設の精液の所見に異常のある男性174人、3〜6か月。著者は人数の少なさを限界に挙げている。抄録のみ確認)
- de Ligny W, Smits RM, Mackenzie-Proctor R, et al. Antioxidants for male subfertility. Cochrane Database Syst Rev. 2022;5(5):CD007411. PubMed: 35506389(RCT 90件・10,303人のコクランレビュー、2021年2月までの文献。20種類の抗酸化成分をまとめている。出生を報告したのは12件・1,283人で、根拠の確かさは低い〜非常に低い)
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