「糖質を減らすべきか、脂質を減らすべきか」――ダイエットを始める男性が最初にぶつかる壁です。SNSでは両方の陣営が激しく主張を繰り広げていますが、科学的にはどちらが優れているのでしょうか。
結論から言えば、長期的な体重減少効果に大きな差はありません。しかし、筋肉量の維持、テストステロンへの影響、継続しやすさという観点では、それぞれに明確な違いがあります。
この記事では、大規模ランダム化比較試験のデータをもとに、男性がダイエット法を選ぶ際に本当に重要なポイントを解説します。
糖質制限と脂質制限の基本メカニズム
糖質制限(ローカーボ)の仕組み
糖質制限ダイエットは、1日の炭水化物摂取量を通常の250〜300gから20〜130g程度に減らすアプローチです。
- インスリン分泌の抑制:糖質摂取を減らすことでインスリン分泌が低下し、脂肪の蓄積が抑えられる
- ケトーシスの誘導:極端な糖質制限(1日20〜50g以下)では肝臓がケトン体を産生し、脂肪をエネルギー源として優先的に使用する
- 食欲抑制効果:タンパク質と脂質の摂取量が増えることで満腹感が持続しやすい
脂質制限(ローファット)の仕組み
脂質制限ダイエットは、1日の脂質摂取量を総カロリーの20〜30%以下に抑えるアプローチです。
- カロリー密度の低減:脂質は1gあたり9kcalと、糖質・タンパク質(4kcal/g)の倍以上のカロリーを含むため、脂質を減らすと総カロリーが自然と下がる
- 糖質の確保:十分な糖質を摂取できるため、高強度の運動パフォーマンスが維持しやすい
- 食物繊維の摂取:穀物や果物を制限しないため、食物繊維が不足しにくい
大規模臨床試験の比較結果
DIETFITS試験(2018):最大規模のRCT
Gardner et al.(2018)がJAMA誌に発表したDIETFITS試験は、609人を対象に12ヶ月間追跡した最大規模のランダム化比較試験です。
- 低脂質群:12ヶ月で平均 -5.3kg
- 低糖質群:12ヶ月で平均 -6.0kg
- 群間差:統計的に有意差なし(p=0.10)
この研究の重要な結論は、遺伝子型やインスリン分泌パターンによっても「向いているダイエット法」を予測できなかったという点です。
メタアナリシスの結論
Tobias et al.(2015)がThe Lancet Diabetes & Endocrinologyに発表したメタアナリシスでは、53のRCT(参加者68,128人)を分析し、低脂質ダイエットが他のダイエット法と比較して優れているというエビデンスはないと結論づけました。
一方、Hall & Guo(2017)のメタアナリシスでは、等カロリー条件下では低脂質食のほうがわずかに多い体脂肪減少を示しましたが、その差は臨床的に意味のない程度(1日16kcal分)でした。
筋肉量とテストステロンへの影響
筋肉量の維持:タンパク質が鍵
ダイエット中の筋肉量維持において最も重要なのは、糖質や脂質の割合よりも十分なタンパク質摂取です。
Longland et al.(2016)の研究では、高タンパク食(体重1kgあたり2.4g)と筋力トレーニングの組み合わせにより、カロリー制限中でも筋肉量を増加させながら脂肪を減らすことが可能であると示されました。
- 推奨タンパク質量:体重1kgあたり1.6〜2.2g/日(ダイエット中はさらに多めに)
- 糖質制限のリスク:タンパク質は確保しやすいが、極端な制限はトレーニングパフォーマンスを低下させうる
- 脂質制限のリスク:タンパク質と糖質を十分に摂取できるが、脂溶性ビタミンの吸収低下に注意
テストステロンへの影響
男性にとって見逃せないのが、ダイエット法がテストステロン値に与える影響です。
Whittaker & Harris(2022)のシステマティックレビューでは、脂質摂取量を総カロリーの20%以下に制限するとテストステロンが有意に低下することが報告されています。脂質はステロイドホルモン(テストステロンを含む)の原料となるコレステロールの供給源であるため、極端な脂質制限はホルモンバランスに悪影響を及ぼします。
一方、糖質制限に関しては、短期的にはテストステロンが上昇する傾向がありますが、長期的なデータは限られています。Volek et al.(1997)の研究では、脂質摂取量の増加がテストステロン値の上昇と相関していました。
テストステロンを維持しながらダイエットしたい男性は、脂質を極端に制限しすぎないことが重要です。最低でも総カロリーの25〜30%は脂質から摂取しましょう。
タイプ別おすすめ|どちらを選ぶべきか
糖質制限が向いている人
- 白米やパン、麺類をたくさん食べる習慣がある
- 食後の眠気が強い(インスリン抵抗性の可能性)
- 空腹感を感じやすく、間食が多い
- 内臓脂肪型肥満(ウエスト85cm以上)
- デスクワーク中心で運動量が少ない
脂質制限が向いている人
- 週3回以上の筋力トレーニングや高強度運動を行っている
- 揚げ物やスナック菓子、脂肪の多い肉が好き
- ご飯やパスタを完全に断つのが難しい
- テストステロンの低下が気になる(脂質を極端に減らさない範囲で)
実践メニュー例
糖質制限の1日メニュー(糖質100g以下)
- 朝食:スクランブルエッグ3個 + アボカド半分 + ブラックコーヒー
- 昼食:サラダチキン + ブロッコリー + チーズ + オリーブオイルドレッシング
- 間食:ナッツ類30g + プロテインシェイク
- 夕食:サーモンの塩焼き + 温野菜(きのこ・ほうれん草)+ 味噌汁
脂質制限の1日メニュー(脂質50g以下)
- 朝食:オートミール + バナナ + 低脂肪ヨーグルト + はちみつ
- 昼食:鶏むね肉の蒸し焼き + 玄米ご飯150g + 野菜の煮物
- 間食:プロテインバー + りんご
- 夕食:マグロ赤身の刺身 + 白米100g + 豆腐の味噌汁 + ほうれん草のおひたし
よくある質問
Q. 糖質制限と脂質制限、短期間で結果が出るのはどちらですか?
A. 短期的(1〜2週間)には糖質制限のほうが体重の減少が大きく見えます。ただし、これは主に体内の水分(グリコーゲンに結合した水分)の減少であり、体脂肪の減少とは異なります。実質的な脂肪減少のスピードはほぼ同等です。
Q. 筋トレをしている場合はどちらが良いですか?
A. 高強度の筋力トレーニングでは糖質がエネルギー源として重要なため、脂質制限(糖質を確保)のほうがパフォーマンス維持に有利です。ただしタンパク質を体重1kgあたり2g以上摂取し、脂質を極端に減らしすぎないことが前提です。
Q. 両方のいいとこ取りはできませんか?
A. 可能です。糖質も脂質も「適度に」制限しながらタンパク質を高めに設定する「バランス型」が、実は最も継続しやすく実践的なアプローチです。PFCバランスの目安はタンパク質30%、脂質30%、糖質40%です。
参考文献
- Gardner CD, et al. JAMA. 2018;319(7):667-679.
- Tobias DK, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2015;3(12):968-979.
- Hall KD, Guo J. Am J Clin Nutr. 2017;106(6):1381-1389.
- Longland TM, et al. Am J Clin Nutr. 2016;103(3):738-746.
- Whittaker J, Harris M. J Steroid Biochem Mol Biol. 2022;217:106055.
- Volek JS, et al. J Appl Physiol. 1997;82(1):49-54.





